はじめの一歩7月号(通算第124号 )
『祖父の面影』
北田久美
私は祖父のことを知らない。
父方の祖父も母方の祖父も、私が生まれる前に他界した。
父方の祖父は、賑やかな場所が好きな人で、私の父が祭り事には黙っていられないのも、その影響を受けているのだろう。
祖父は祭り囃子で笛を吹いていた。
字が上手だった。
人が好きだった。
とんでもない発想で家族を仰天させたりもしていた。そんな人だったそうだ。
先日、写真や両親の話でしか知ることのできない祖父の姿をすぐ傍らで感じられるような経験をした。
地域でおこなわれたアート展に出掛けた。地域の方々が手がけた作品が展示されるイベントだ。私の父が出展していたものは、少し古びた木箱の蓋だった。それは父が作ったものではなかった。
蓋の裏には当時、地域の囃子連に属していた人々の直筆の名前と絵が描かれていた。中央辺りに、祖父の名前を見つけた。祖父本人が書いたものだ。丁寧に書かれたことが伝わるような字だった。その隣に絵が描かれていた。祖父本人が描いたものだ。『外道』というお面の絵だった。
私は、その木箱の蓋に祖父の面影をみた。
父が展示したのは、当時の人たちの思いだったのかもしれない。
祖父が描いた絵は、写真で見るその顔と少し似ている気がした。
もちろん、写真の祖父の方がもう少し優しそうだけれど。