はじめの一歩4月号(通算第145号 )
『新しい生活』
酒井有加
今年の二月、結婚をして新しい生活が始まった。今まで実家暮らしで家事は全て母がやってくれていた。昔から母に料理を教わろうとしても、もたもたする私につい手を出してくる母が嫌で長続きはしなかった。そして、新しい生活は心の準備がないまま始まってしまった。
旦那は父子家庭ということもあり、お父さんと家事を分担してやっていた。そういうこともあり、お父さんがやっていた料理全般は私、掃除、洗濯は旦那がやってくれたり、その時に出来る方がやることになった。
一緒に住み始めて、初めての料理。体調が優れない旦那に煮込みうどんを作ることにしたのだが、味付けが分からず、すぐに母に電話した。聞いたとおりにやってみると、何となく母の味になったような気がした。初めての買い出しは、何を買うのか整理も出来ていないまま、商品がどこにあるのかも分からず店内をウロウロして小さなスーパーなのに三十分以上かかった。きっとこれからこの店に買い物に来ると思って、ポイントカードを作ってみたら、何だか主婦になった気分だった。献立が思い浮かばない日は職場の先輩たちに聞いたりもした。
お義父さんが可愛がっていた十歳のチワワは心臓と肝臓が良くなく、毎日の薬と二日に一回自宅で点滴を打っている。始めの頃は私に全く慣れず吠えていたが、今では帰るとしっぽを振って、呼べば膝の上へ来るようになった。ドッグフードは食べず、肉や野菜を茹でたり、芋をふかしてみたり、卵を炒ってみたりと試行錯誤しながら何とか毎日のご飯を作っている。何だか急に子どもができて、離乳食を作っているような感覚だ。
新しい生活が始まって、今まで大好きだったお風呂が嫌いになった。理由は時間がもったいないからだ。今まで寝る前にSNSを見たり動画を見たりするのが日課であったが、今では布団に入るとすぐに寝てしまう。
そんな中でも新しい好きなことも見つけた。出勤通路が変わって青梅から奥多摩へ行く道のり、自宅へ帰ってからのチワワとの散歩、夕飯を作って「あー、いいね」と言ってくれる旦那の一言、たまに帰る実家、たまに食べる母の料理・・・
この数ヶ月でたくさんのことが変わった。今は慣れない新生活に戸惑うこともあるが周りの人や旦那への感謝を忘れずにいたい。
そして新しい好きなことをたくさん見つけていきたい。