はじめの一歩12月号(通算第153号 )
『子ども同士の言葉のあたたかさ』
戸田美帆
12月初めの土曜日、古里保育園のホールにて「おゆうぎ会」がおこなわれました。一年の中で子どもたちの練習の成果が発表することの出来る、運動会と並ぶ大きな行事です。もも組5歳児は、難しいステップや表情もあり、たくさんの練習を重ねます。当日、私は職員間の係で舞台上の傍で見守っていました。出番を迎え、真剣な表情で精一杯踊っています。どの子も本当に上手です。最後のポーズが決まり幕が閉まります。すると、子どもたちの顔は一変。一瞬でほぐれました。幕の向こうの客席にバレないように声を上げずに蔓延の笑みで両手を広げて抱きつきに来る子。「最高だった!」とスッキリした表情の子。「かっこよかったでしょ?」と自信に満ち溢れた子。それぞれの達成感のある表情を見ることができました。たくさんのお客様の前で緊張もしたけれど、見てもらえる喜びも感じているようでした。きっとご家庭でも、素敵な言葉でたくさん励まされ、褒めてもらえたおかげでここまで来られたのではないかと思います。
さて、その数日後の木曜日です。5歳児のプレイルームのレッスンには、今までになく子どもたちの集中力を感じていました。講師の塩原先生が、よく話が聞けて行動できた事でその日の課題を終了予定時刻よりも早くこなせた事を子どもたちに褒めてくださいました。私は、「ご褒美」として、お散歩を提案し、見晴らしの良い園舎北側の墓地のてっぺんまで連れて行くことにしました。塩原先生も誘い一緒に向かいます。
この日はとても日差しが暖かく、散歩日和でした。工事中の所を避ける為、墓地の中をずっと歩いて行きました。行きは上り階段です。「通らせてください」と、挨拶を繰り返し墓地の前を通過する子もいます。すると、風に乗ってお線香の香りがしてきました。私は誰かが「臭い」と言い出すことを懸念していました。しかし、ひとりの男の子が「あっ、いーにおーい・・・。」と呟きました。すると、後から付いて来た女の子も「あー!いーにおーい!」と。そして「ほんとーだあ!」「お線香の匂いだねー。」と、話が伝線していきます。私は、子どもたちに余計な心配していた事を詫びる気持ちで、その会話の流れにひどく感心していました。
てっぺんでは、町の様子を一望。提げていった水筒で水分補給をする間にもとても心地良い風が吹き、両腕を上げると、それを感じられました。「気持ちいーい!」「おーい!」「みんなで合わせてやろう!せーのっ!おーーい!」と、気持ちよく、気の向くままに声を出しました。仲間で息を合わせるところも見ていて気持ちの良いものでした。
家の屋根も、道路をゆく車も、青梅線も、みんな小さく見えました。その素敵なステージで、おゆうぎ会でクラスとして発表した二曲を歌いました。
帰りの下り道、ちょっとだけ待っていてもらい祖父母の墓地に手を合わせて来ました。それを話すと「死んじゃったの?」と、一人の子が心配そうに聞きました。間髪入れずにもう一人の子が「亡くなったって言うんだよ。」と諭します。
途中にコロコロした鹿の糞や、猪の掘った土と思われる荒れた穴を発見したり、楽しい充実したお散歩でした。
今回は、子どもたち同士での言葉のやりとりにとても感心し、あたたかさを感じました。いつの間にこんなに子ども同士だけでも、会話が成立し、膨らんでいくようになったのかと思いました。
おゆうぎ会の年齢毎のクラスの演目でも見られたように、子どもたちは少しずつ素敵な言葉を獲得してきたのでしょう。
赤ちゃんの時の「アー」「ウー」という発語や意味のある「マンマ」「ブーブ」いう言葉を大人に受け止めてもらいます。おもちゃの取り合いでは、友だちを知ります。また、「いれて」と「いいよ」を経験し、ごっこ遊びで、会話を弾ませます。友だちの特徴を知りながら、共に過ごします。園外の大人に出会い、言葉を選んで会話をします。
これらは急に出来る様になった訳ではないでしょう。やはりどんな事でも小さな事から一歩一歩の積み重ねが大切だと感じます。これからも日々の子どもたちの歩みをサポートさせていただけたらと思います。