はじめの一歩2月号(通算第143号 )
『再出発』
須崎満喜子
まもなく夫が長年にわたって勤めた職場を退職して一年が経とうとしている。定年まであと数年というところで辞めた。
我が家ではキャンプ場を営んで40年余りになる。かつて両親が切り盛りをしていたが、数年前から病気と高齢になってきたため徐々にできなくなっていった。私も嫁いでからずっと手伝ったりとなんとかぎりぎりまで頑張ってきたが、続けるにはとうとう厳しくなってしまった。かつて母が元気な時「私たちができなくなったら、休業して(息子である夫が)定年になったらまたやればいい。」と定年後のことを思ってよく言っていた。しかし、ありがたいことに長年にわたり贔屓にしてくれるお客さんが思いのほかいて、休業の札をおろすことは難しい。片手間にできることではないので、なんとか協力してくれる知人、友人、親戚を頼りにしばらく続けてきた。シーズンともなれば土日祭日を始め平日もほぼ休むことなく、職場と家業そして介護を掛け持ちしつつ私も夫と共に夢中でこなしてきた。もう少し、あと少しと夫にはなんとか定年まで全うしてほしいと願いながらも、毎年シーズンを迎えるたびに、いつまでこの状態を続けられるだろうという不安があった。オフになり職場から帰ってきてはコツコツと暗くなるまでペンキ塗りをしたり、老朽化したところを修理する活き活きとした姿を見たときに、とうとう気持ちの整理がついたのだと感じた。跡を継ぐ決心を固めた夫はとうとう退職を迎えることとなった。
いろいろなお客さんから「前とずいぶん変わってきれいになりましたね。」「おばさんは元気?」「あのおもしろいことを言うおじさんは?」と幾度となく言われ両親の人柄からもあってか、いかに常連さんが多かったことに改めて気づかされた。たくさんの人に支えていただきながら新オーナーは〝はじめの一歩”を歩み始めました。