はじめの一歩4月号(通算第180号)
『あと1年』
須﨑 満喜子
50(才)を過ぎた頃からだろうか。「定年になったら、ゆっくり列車の旅がしたいねえ」と旅番組を見ては夫とそんな会話を度々していた。列車なら飲んで、食べて、寝てと気楽に車窓を眺めながら、のんびり気ままに過ごすことができる。車の運転があまり好きではない自分たちにはぴったりだ。
今から30年程前のこと。新婚旅行といえばほとんどの人は海外を選ぶのだろうが、私たちの場合は食事のことが問題だった。肉が苦手な者同士に外国はちょっと無理かなと、美味しい山海の幸がいっぱいの北海道へと寝台特急「北斗星」に乗り上野を出発した。普通だったら、新婚なのだからそりゃあ楽しい時間が過ごせるはずだったに違いない。翌朝、札幌に無事についたことを親に知らせようと電話をかけた。(当時まだ携帯電話はなかった)なんか夫の様子がおかしい。「親父が車ごと川の方に落ちたらしい・・・」さあ、これからと思っていた矢先、ゆっくりするどころか気もそぞろなまま過ごし、結局予定を早く切り上げて帰宅する羽目になってしまった。義父の怪我はたいしたことはなかったのだが、そのあとの顛末はいろいろありまして、この場ではちょっと語れませんがひと騒動ありました。後々笑い話にもなったりとあらゆる話題を振りまいてくれた、ある意味レジェンドの義父を先日見送ることとなり、久しぶりにそんなエピソードを思い出した。
来年は結婚30年、そして定年と節目の年を迎える。豪華列車に乗って、今度は何ごともなく予定通り家に帰るまで旅を満喫できることを夢見ている。