はじめの一歩第193号
『想い』
邊見 かおる
私の父は愛知県の山間の小さな町で生まれた。
戦後間もない時期で、6人兄弟の長男だった事もあり、中学を卒業後
工場を営む叔父を頼って東京に出てきたそうである。
まだ、あどけない15歳の少年が親元を離れ、知らない土地で初めての仕事・・・。
時代とはいえ、考えただけで胸が苦しくなってしまう。
父は叔父の会社から独立してからは、仕事一筋だった。
今の時代ではあり得ないが、子育ては母任せで、入学式に始まり運動会や学芸会、卒業式に至るまで、兄弟3人の学校行事の参加はほぼ皆無だった。
でも、自宅に工場が併設されていたので、幼少の頃から父の働く後ろ姿を見て育っていた私たちは、父が家族の為に一生懸命仕事をしてくれていたのは身にしみていた。
だから来られない事に対して、誰も苦情を伝える事は無かった。
あっ。母は文句と諦め全開でしたが・・・(笑)
父は普段は無口だけど、お酒を飲むと饒舌とまでは行かないが会話がはずむ。
気分が良くなるとお酒も進み昔の話をしてくれる事もあった。
そんな日は必ずといっていいほど感極まって。
そんな父も、先日88歳の誕生日を迎えた。
家族そろって父の米寿をお祝いすることが出来て、娘としてこの上ない幸せだった。
と同時に、会う度に年老いて行く姿に、悲しいかな、いつか訪れる永遠の別れが近づいているかも・・・。と頭を過ぎる・・・。
お互いを鼓舞しながら毎日生活している父と母。
年老いている両親に、私は親孝行できているのかな?
もっと会いに行こう。
もっと父や母の事の事を知っておきたい。
人生100年時代、「元気で長生きして欲しい」と願いながら、私なりにこれからも、親孝行をしようと想った。